労働判例研究
労働組合の役員選出総会決議の不存在確認−プレカリアートユニオン事件
東京高裁令和6年11月13日判決
令和6年(ネ)第2701号、同第3433号 X対プレカリアートユニオン、総会決議不存在確認等請求控訴事件、同附帯控訴事件
労働法律旬報2095+96号98頁
〔参照条文〕労働組合法5条2項5号、会社法830条1項、831条1項1号
[事実]T 当事者
X1(一審原告、被控訴人)はY1(プレカリアートユニオン。被告、被控訴人)の組合員であったが、除名された。X2はX1の補助参加人であり、訴外Z(X1の選定者)はY1の組合員であったが、除名された。
Y1(プレカリアートユニオン)はX1が加入し、除名された労働組合であり、労働委員会の法適合証明を受け、登記済みである。Y2はY1の代表者である。
U 事案の経過
Y2は平成27年9月19日のY1総会で執行委員長に選任され、以後令和5年9月9日総会に至るまで執行委員長に選任されている。X1は平成28年にY1に加入し、平成31年3月17日から1年間の権利停止処分を、令和元年8月18日から1年間の権利停止処分を、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和2年9月12日のY1総会で除名された。ZはY1の組合員であったが、令和2年7月5日から令和4年1月4日までの権利停止処分を受けた末に、令和3年9月11日のY1総会で除名された。
Y1は平成27年から令和5年までの間、計10回の総会を開催した。X1の除名は第4次総会決議(令和2年9月12日)、Zの除名は第5次総会決議(令和3年9月11日)による。X1は主位的請求としてこの計10回の総会の決議がいずれも不存在であることの確認を求めて、予備的請求としてこれら決議がいずれも無効であることの確認を求めて、訴えを提起した。
令和6年2月28日、東京地裁はXの主位的請求(総会決議の不存在)を認容する判決を下した(東京地判令和6・2・28判タ1523号180頁)。これに対してY1は控訴したが、本判決は控訴を棄却した。控訴審係属中の令和6年5月26日、Y1は臨時大会(本件臨時総会)を開催し、X1及びZについて組合費滞納を理由とする資格喪失の決議を行った。なお、令和7年7月2日、最高裁はY1の上告を棄却し、本判決が確定した(最決令和7・7・2D1-Law28332377)。
[判旨] 控訴棄却
T 総会決議の不存在
1 「本件第1次総会〔平成30年9月8日〕においては、代議員の選任のために各支部における直接無記名投票が実施されておらず、Y1は立候補者がいないものとしてY2らにおいて特定の組合員に声掛けをして代議員になってもらい・・・、総会ごとに組合員全員に対し代議員の立候補意思を有する者はその意思を表明するよう広く呼び掛けるといった公募手続、これに対応する投票手続は採られておらず、支部によっては一部の者の話合いにより代議員が決められ、Y1本部に伝えられていたこと・・・・・・、そのため、X1は、代議員に立候補する意思があったにもかかわらずその機会がなく立候補できなかったこと、他方で、Zは、代議員に立候補していないにもかかわらずY1から説明もなく案内書及び代議員証の郵送を受けたことから代議員として本件第1次総会に出席したことが認められる。
これらの事実によれば、本件第1次総会においては、代議員の選任手続について選挙大会規定10条に反し直接無記名投票を行わないといった瑕疵があったということができる。また、Zが代議員になった状況からすると、少なくともZの所属している支部においては、代議員の選任に同支部の組合員の多数の意思が反映されていたとはいえないし、Y2が、活発に組合活動をしていた人や大会に出席してくれそうな人等に声がけをしていたと供述していること・・・からして多くの支部において同様の状況であったと推認されるのであり、各支部において直接無記名投票と同視できる程度の民主的手続によって代議員が選任されたということもできない。」
「労働組合法5条2項5号が役員又は代議員の選挙を直接無記名投票によるものと定めた趣旨は、投票者の意思が第三者の意思を経ることなく直接最終的なものとして表明されること及び投票の秘密が守られることを確保し、これにより組合民主主義を実現することにあると解されるから、直接無記名投票によらずに役員を選任する場合には、仮にこれが許されるとしても、少なくとも直接無記名投票による場合と同程度に投票者の意思が直接表明され、投票の秘密が守られる方法によることを要するものというべきである。しかるに、本件における代議員の選出過程は・・・投票者意思の直接的な表明がされているとも、投票の秘密が守られているともいえないものであり、また、本件のような選任手続によって選任された代議員による決議は組合員の多数の意思を反映したものということはできず、・・・その瑕疵は重大であり、もはや法的に総会決議と評価することはできず不存在というべきである。
そうすると、本件第1次総会決議は不存在である。」
2 「本件第1次総会決議は不存在であるから、当該決議において選任された役員によって構成される執行委員会は正当な執行委員会ではなく、その後に招集された大会は、法的には大会の招集権限を有する・・・執行委員会ではないものが招集したものとして、組合員の全員が出席して開催された等の特段の事情がない限り、その大会において行われた決議は不存在と評価される・・・。
本件において上記特段の事情を認めるに足りる主張立証はないから、本件第2次総会決議〔令和元年6月23日〕は不存在であるとともに、同様の理由によって本件第3次総会決議〔令和元年9月15日〕ないし本件第7次総会決議〔令和5年9月9日〕も不存在である。」
3 (直接無記名投票による代議員選挙は、代議員の候補者が定員を上回った場合を想定した規定であるとの)Y1の主張に対し、「選挙大会規定10条の明文規定に明らかに反するだけでなく、組合の意思決定の重要な機関である代議員の選任を組合員の多数の意思を反映せずに行うもので、上記のような選任方法が慣例になっていたとしても、そのような選任方法は組合規約に反するものといわざるを得ない。」
U 控訴審におけるY1の主張について
1 「代議員又は役員の直接無記名投票制度は組合民主主義の実現の根幹をなすものというべきであるから、〔労組5条2項5号〕が単なる組合規約の記載事項のみを定めたものと解することはできない。」「組合民主主義の実現のために適正な手続を確保することが要請されることは前記のとおりであり、Y1の組合員全員の承諾がある場合等であればともかく、本件においてそのような事情は見当たらないから、瑕疵が軽微であるとはいえない」。
2 「適正な手続を欠いてされた本件各決議について、組合員全員がその追認を承諾し、あるいは、新たな代議員の直接無記名投票による選任を経た上で本件臨時総会が開催されて追認の決議が行われたなどの事実を認めるに足りる証拠はなく、瑕疵の治ゆがあったということはできない。」
[評釈]判旨に若干疑問あり
T 本事案は、その中核は組合員の除名処分の正当性をめぐる紛争であり、組合民主主義や統制権、団結自治の限界といった古典的テーマに関わるものであるが、除名処分自体の無効確認ではなく、その前提となる役員選出総会決議の不存在確認を求め、それが認容された事案である。
組合執行部に対する批判的少数派組合員の除名の事案としては、全日産自動車労組事件(横浜地判昭和62・9・29労判505号36頁)が、労組内の共産党系少数派の除名処分とそれに伴うユニオンショップ解雇の事案について、除名処分を「統制権の限界を超えて無効」とした一方、企業を超えた個人加盟の一般労働組合における批判的組合員の除名処分の事案としては、東京土建一般労働組合事件(東京地判昭和59・8・27労判441号39頁)と東京土建一般労組事件(東京地判平成4・10・13労判619号31頁、控訴審:東京高判平成5・10・25労判650号43頁)があり、いずれも(後者は一審、控訴審とも)除名処分を有効としている。本事案がX1の除名処分自体の無効を争うものであったならば、企業内組合におけるユニオンショップ解雇事案ではなく企業を超えた個人加盟の一般組合における批判派の除名であることからすると、除名が有効とされる可能性もあったとも考えられる。
U 本判決は、労働組合法上に特段規定のない総会決議の不存在確認について、明文の規定のある会社法830条1項(株主総会等の決議の不存在の確認の訴え)に倣う形で、Y1の総会決議の不存在確認という訴えを認めている。
会社法は総会決議の瑕疵を争う場合について、決議の不存在確認の訴え(830条1項)、決議の無効確認の訴え(同条2項、内容の瑕疵のみ)及び決議の取消しの訴え(831条)の3つの類型を認めている。これらのうち原則は会社法831条の取消しの訴えであり、3か月の出訴期間の制限があり、裁量棄却も可能である(同条2項)。その事由は同条1項各号列記で示されており、「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき」(同条1項1号)はこれに含まれる。
これに対し、会社法830条1項の不存在確認の訴えは、@決議が物理的に存在しない場合とA物理的に決議は存在するが、その手続の瑕疵が著しいため、法律上、決議が存在したとは評価できない場合も含まれる。後者は取消しの訴えと事由が重なり、両者の差異は瑕疵の程度問題となる。たとえば、代表権のない取締役が取締役会の決議なく株主総会を招集した場合は、招集権者でない者による招集として、当該株主総会の決議は不存在になる(最判昭和45年8月20日判時607号79頁)。また、招集通知漏れ(一部の株主に招集通知をしないこと)は、通常は決議取消事由にしかならないが、招集通知漏れの程度が著しい場合は、決議は不存在になる(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁。代表取締役が実子2名にのみ招集通知をし、他の株主6名には通知をしなかった事例)。手続の瑕疵の著しさについて、瑕疵の客観的内容だけでなく、主観的態様も考慮すべきであり、招集権者が反対株主を排除する目的でことさら招集通知をしなかった場合の方が、決議は不存在とされやすくなると論じられている(田中亘『会社法 第5版』東大出版会)。
V 労働組合法上にはこうした総会決議の瑕疵を争うための規定は存在しない。他の団体法を見ると、農業協同組合法(47条)、消費生活協同組合法(46条)、中小企業等協同組合法(54条)、労働金庫法(54条)、労働者協同組合法(70条)等、多くの法律が会社法の規定を準用している。また、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般法人法)は準用ではなく、会社法と同様の規定を置いている(一般法人法265条、266条)。2006年に同法が制定された際、労働組合法はそれまでの民法の公益法人の規定の準用を削除するとともに新たな規定を設けたが、一般法人法の準用は一部に限られ、総会決議の瑕疵を争う規定は設けられなかった。
もっとも、形成訴訟である取消しの訴えは明文の規定なしに準用の余地はないが、不存在確認の訴えは一般法理に基づいて可能である。そもそも現会社法830条の前身たる旧商法252条は、1981年改正で決議不存在確認の訴えが追加されるまでは内容の瑕疵による決議無効確認の訴えのみであったが、多数の判例により不存在確認の訴えが認められていた。物理的に決議不存在の場合は当然であるが、著しい手続の瑕疵の場合も認められていたので、およそ団体の意思決定の瑕疵に係る一般法理と見てよいであろう。
ちなみに労働組合法においても、ユニオンショップ解雇事案ではあるが、朝日自動車事件(大阪地判昭和38・3・29判時337号43頁)は、組合大会における除名決議がその招集手続において組合規約に違反した(「少なくとも3日前」と定められているのに10時間余の間隔しか置かず、かつ組合員の一部を除外して行われた)ことを理由に無効とされたことがある。
以上からすれば、本判決が労働組合法上に特段の規定のない総会決議不存在確認の訴えを認めたこと自体は正当であろう。ただし、会社法等において原則とされている取消しの訴えが規定の欠如ゆえに不可能である中で、本来瑕疵が著しい場合の特則であるはずの不存在確認の訴えだけが可能であるため、瑕疵はあるがそれほど著しくない場合の取扱いが宙に浮いてしまい、会社法等であれば取消事由ではあっても不存在確認までは認められないような軽度の瑕疵までが、他に救済手段がないからとして不存在確認とされてしまう危険性がある。本判決はその文飾において繰り返し本件における瑕疵の重大性を強調しているが、会社法の関係判例において不存在確認が認められた事案の著しい瑕疵とはかなり落差があると言わざるを得ない。
W なお本事案の社会学的特徴は、Y1がいわゆる合同労組であり、ある職域の労働者が団結して労働条件の維持向上を図るための組織ではなく、個別労働者がそれぞれの職場で遭遇した解雇、いじめ、労働条件等の個別労働紛争を解決するために加入し、労働組合であるという名目で相手方会社に団交応諾義務を課し、一定の解決を図るための組織であるという点にある。
同じ当事者によるプレカリアートユニオン(拠出金返還等請求)事件(東京地判令和4・5・24労判1268号13頁)は、Y1がX1の元雇用主であるA社及びB社との間でX1の意に反する和解を成立させ、X1に精神的苦痛を与え、X1がA社及びB社との和解で受領した解決金の一部を拠出金名目で徴収した等と訴えた事案であり、A社からの解決金19万円の2割の3万8000円と、B社からの解決金300万円の1割の30万円を、Y1が拠出金として控除してX1に渡したことを非弁行為(弁護士法72条違反)だと、X1は主張した。この事件の判決は、A社との和解、B社との和解いずれもX1の意に反するものではなく、Y1による拠出金の受領は非弁行為ではないと判示した。
ただしそれは労働組合法上の労働組合であることが前提であって、そこに疑問が呈される可能性はありうる。労働委員会が不当労働行為の救済を申し立てた労働組合(首都圏青年ユニオン連合会、以下「S」)に対し、資格審査の結果、救済を受ける資格なしとして申立てを却下した事例(グランティア事件(東京都労委決定令和2・6・16労働委員会命令データベース)が存在する。都労委は「Sにおいては、制度として、役員以外の一般の組合員がSの運営に参画したり、意見を述べたりする仕組みができていないのみならず、実態としても、一般の組合員は、組合費を負担しない代わりに、大会及び役員選挙に関与せず、Sの運営に自らの意思を反映させていない上、そのような状況に特に不満はなく、むしろ、Sの運営や活動にかかる負担のないことが組合員であることの動機付けとなっているとみられる。こうしたことからすると、Sにおいては、一般の個々の組合員が、Sを自主的に組織する主体であるということは困難である」として、その申立てを却下した。
Sは極端な事例ではあるが、もっぱら個別労働紛争を解決する機能のみを純粋抽出し、それ以外の余計な機能を排除してしまえば、当該機能を遂行する上では合理的な組織となるが、そもそもその機能が果たせる法的根拠となっている労働組合であるという建前の虚構性が露呈してしまい、正真正銘の非弁行為となってしまう。本事案のY1はもちろんSと異なり、もっぱら個別労働紛争解決機能に特化しているとはいえ、労働委員会の資格審査を受けて法適合組合と認定されている労働組合ではあるが、その根拠はまさに労働組合法5条2項所定の民主性にあることを考えると、こういった合同労組であればあるほど、その組織運営上の民主性の確保には細心の注意を払う必要があるということになろう。